狭心症の治療方法は大きく分けて
- 薬物治療
- 手術(カテーテル・バイパス)
の2種類あります。
どちらの治療を行うかはその人の狭心症の重症度、または持病の有無などによって変わってきます。
今回はこの狭心症の治療方法にはどのようなものがあるのかまとめてみました。
薬・手術の前に生活習慣病の改善を
狭心症を起こしたことがある人のほとんどが、何らかの生活習慣病を持っています。
例えば高血圧、高尿酸血症、脂質異常症、糖尿病など。
なので狭心症の治療を受けることはもちろん大切なのですが、まずは生活習慣病の改善をしましょう。
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狭心症の薬物治療
狭心症の人で薬物治療を行う人は2つの場合があります。
1つ目は
- 冠動脈の狭まりが比較的軽い
- 冠動脈の狭くなった場所が少ない
- 狭心症の原因が心臓への影響が少ない場所
など総合的にみて軽度の狭心症と診断された場合です。
そして2つ目は重度の狭心症であっても、全身状態がよくないためにカテーテル・バイパス手術が受けられない場合です。
狭心症で使われる薬は大きく分けて4種類あります。
そのうち2種類は胸の痛みや強い動悸などの症状を抑える薬で
- 発作時に症状を鎮める
- 毎日服用して症状を予防する
効果があります。
そしてそれ以外の薬は冠動脈をいい状態に保つための薬で
- 動脈硬化を改善する
- 血栓を予防する
ものがあります。
それではそれぞれを詳しく見ていきましょう。
発作時に症状を鎮める薬
胸の痛みなどの発作が起きた時に使われるのは、冠動脈を広げて症状を鎮めるニトログリセリンなどの硝酸薬です。
(商品名:ニトロペン舌下錠剤、ニトロール錠、ミオコールスプレー)
薬だと飲み込むのが一般的ですが、これらの薬は舌の裏側で溶かすまたは噴霧して口の粘膜から吸収されます。
それはニトログリセリンが肝臓で分解されやすいからです。
もしニトログリセリンを飲みこんでしまうと、肝臓によってほとんどが分解され効果が発揮できません。
しかし舌の裏側に投与すると肝臓経由しないで直接血管へ吸収されるので、効果を発揮することができます。
また直接血管に吸収されるので、早く効果を得ることができます。
(基本使用から1分以内に効果を感じられる)
狭心症の発作が起きた時は慌ててしまうと思いますが、間違えて飲んでしまわないように気を付けましょう。
ニトログリセリン製剤には舌下錠とスプレーがあり、舌下錠のほうがよく使われています。
ただ口の中が乾きやすい方や、小さい舌下錠だとなくしてしまう方にはスプレーのほうがいいですね。
また普段ニトログリセリンを使わない方は使用期限がきれてしまっていることがあるので、定期的に使用期限は確認しておきましょう。
毎日服用して症状を予防
狭心症の症状を予防する薬は、どの狭心症においても使われます。
しかし狭心症のタイプによって使われる薬は違ってきます。
狭心症のタイプ、労作性狭心症と冠れん縮性狭心症について
まず労作性狭心症の場合はβ遮断薬が使われます。
【例:メインテート、テノーミン、アーチスト(αβ遮断)】
β遮断薬には心拍数を減らして、心臓の活動量を抑える効果があります。
これによって心臓が必要とする血液の量が減るため、運動したり、興奮しても胸の痛みや動悸や関連痛が起こりにくくなります。
またもし症状を感じにくい人であっても、実は心臓に負担がかかっていることがあります。
なので過度の心拍数の上昇や血圧の上昇を抑えることで予防的な効果を期待できます。
ただし脈が極端に低い人が使うと心不全を起こすことがあるので、定期的に脈拍や症状を確認することが大切です。
次に冠れん縮性狭心症の場合は、カルシウム拮抗薬が使われます。
【例:ヘルベッサー、アダラート、アムロジンなど】
カルシウム拮抗薬には血管を広げる効果があり、規則的に服用することで症状を予防することができます。
この血管を広げる作用により、人によっては
- 顔がほてる
- 赤くなる
- 頭痛
- 動悸
などの症状がでることがあります。
β遮断薬は血管を収縮させる作用もあるので、β遮断薬を使ってしまうと症状が悪化する可能性があります。
きちんと狭心症のタイプを診断してもらうためにも、どのような症状があるのか医師に伝えることは重要ですね。
動脈硬化を改善する薬
労作性狭心症の要因である動脈硬化の原因は、血管壁の内側にたまるLDLコレステロールによるものです。
そのため動脈硬化を改善するためにLDLコレステロールをできにくくするスタチンという薬が使われます。
【例:クレストール、リバロ、メバロチン、リポバスなど】
動脈硬化の治療詳細はこちら
外部リンク
ただ最近ではスタチンに血管を広げる働きがあることがわかってきたので、冠れん縮性狭心症でも使われることがあります。
非常に起こる確率は低いですが、スタチンの副作用としては横紋筋融解症というものがあります。
この症状としては主に筋肉痛、尿が赤褐色になるなどがあるので気づいた時には医師に相談しましょう。
血栓を予防する薬
冠動脈に血液の塊である血栓が詰まってしまうと、心筋梗塞を起こしてしまいます。
この血栓ができるのを防ぐためにアスピリンが使われます。
【例:バイアスピリン】
アスピリンは血液を固めて出血を止める血小板の働きを抑え、血栓ができるのを防ぐ効果があります。
これにより出血しやすくなるため、怪我をしないように気を付けましょう。
また中にはアスピリンによって喘息発作がでてしまう人がいます。
過去にアスピリン喘息の誘発物質(インドメタシン、ジクロフェナクナトリウム、イブプロフェンなど)で喘息発作が起きたことがある人は、きちんと医師に伝えておきましょう。
狭心症の手術療法
狭心症で手術を受ける人は以下のような場合があります。
まず1つ目は薬物治療では胸の痛みなどの狭心症の症状が抑えられていない場合です。
主要な冠動脈の根本が狭くなっていたり、複数の冠動脈が狭くなっているとやはり薬の治療だけでは難しいです。
そして2つ目は冠動脈が突然詰まってしまう急性心筋梗塞を起こした場合です。
この急性心筋梗塞は胸の痛みが30分以上続き、発作を抑えるニトログリセリンを使っても症状が落ち着かない状態です。
この状態は大変危険で、約半数は発症して間もなく病院に着く前に亡くなってしまいます。
そのため手術を早急に受ける必要があります。
そして3つ目が狭心症の状態が不安定狭心症に移行した場合です。
不安定狭心症とは症状が起こる頻度が増えたり、長く続いたり、吐き気が冷や汗を伴う症状が強くなった状態です。
この不安定狭心症では血管内のこぶが破れやすい状態で、一度破れると血栓ができてしまい先ほどお伝えした急性心筋梗塞を起こす可能性があります。
狭心症の手術療法にはカテーテル治療とバイパス手術があります。
次からはこれらの手術療法について詳しくみていきましょう!
カテーテル治療とは
カテーテル治療とはカテーテルという細い管を血管に通して冠動脈に送り込み、狭くなったところを広げる治療法です。
このカテーテル治療は開胸する必要がなく、手首の動脈からでも送り込むことができます。
そして手術にかかる時間は1~2時間、入院期間も2~5日程度なので患者さんにかかる負担は少なめです。
カテーテル治療を行われるのは
- 冠動脈の根本や太い幹ではなく、枝分かれした先が狭くなっている
- 肺や肝臓の持病がある
- 狭くなっているのが1~2カ所
- 脳卒中を起こしたことがある
- 高齢者
などのケースが多いです。
そしてこのカテーテル治療の中でも現在の主流なのが、ステントを使った治療です。
ステントとは金属製の網目状の筒のようなもので、手術の際には冠動脈の狭くなった場所で広げて置いておきます。
ただ今まで使われていたステントは、血管の細胞が金属に反応して増殖してしまい、30~50%の人が治療後に再狭窄を起こしていました。
そこで最近では薬剤溶出性ステントが使われています。
これには血管の細胞が増殖するのを防ぐ薬がステントの表面に塗られています。
そのため治療後再狭窄する割合は、大きく減らすことができています。
また薬剤溶出性ステントには薬をゆっくり溶出させるためにポリマーという成分も塗られています。
このポリマーですがやっかいなことに血管の機能を低下させステント内に血栓を生じやすくし、心筋梗塞を起こすリスクを高めるデメリットがあります。
なのでカテーテル治療後は、一定期間血栓ができるのを予防する薬を飲むことが大切です。
それではカテーテル治療はどういったものなのか動画でも確認してみましょう!
バイパス手術
バイパス手術は冠動脈の詰まったところや狭い所を迂回し、その先に血液が流れるための新しい通り道(バイパス)をつくる治療法です。
バイパス手術ならばもしたくさん狭窄した場所があっても、バイパスをつくることで冠動脈全体の血液の流れをよくして心臓の状態を改善できます。
また動脈硬化の進行を予測し、バイパスを多めにつくっておくことで血液の流れをよくし、心臓の状態を安定させることもできます。
この治療方法で使われるバイパスは切り取っても体に影響を与えにくい
- 内胸動脈
- 腕の動脈
- 胃の動脈
- 脚の静脈
などが利用されます。
このなかでも内胸動脈は血管を広げる作用のある一酸化窒素をつくりだす能力が高いため、動脈硬化を起こしにくいといわれています。
バイパス手術が行われる人は
- 冠動脈の根本が狭くなったり詰まったりしている
- 狭窄している場所が3ヶ所以上
- 全身麻酔のため重い持病が少ない人
などのケースが多いです。
他にもバイパス手術が優先される人として、糖尿病の治療歴が長い人と腎臓病で透析治療を受けている人がいます。
というのも糖尿病では動脈硬化が進みやすく血管が細くなっているのため、カテーテル治療が難しくなります。
また糖尿病の状態が重度の場合、カテーテル治療ができたとしても将来的に冠動脈の別の場所が狭窄したり、詰まる可能性があります。
そして透析治療をしている重度の腎臓病の場合は、血管が石灰化し固くなりやすいためカテーテル治療が困難です。
最後に手術時間についてですが約5時間程度かかり、通常は2週間程度の入院が必要です。
またこの治療方法では胸の骨を切開するので、元の状態に戻るまでは2~3ヵ月程度かかります。
それではバイパス手術はどういったものなのか動画でも確認してみましょう!
カテーテルとバイパスどっちがいい?
どちらの治療方法もそれぞれメリット・デメリットがあります。
また手術を受ける方の狭窄の状態や持病、年齢などから総合的に判断するので一概に決めることはできません。
なので、カテーテルとバイパスそれぞれのメリット・デメリットを簡単にまとめてみましょう。
まずカテーテルのメリットですが体の負担が少なく、もし他の場所で再発した場合でも繰り返し治療を行えることです。
逆にデメリットですが、狭窄した場所を治療してもその後、別の場所で再発する可能性があるということです。
そしてバイパス手術のメリットは治療が一度で済み、治療後に再発する可能性が少ないことです。
逆にデメリットは体の負担が大きく、再手術をする場合は危険性が高くなってしまうことです。
このようにメリット、デメリットは両方にあります。
ただ重大な合併症を起こすことなく、冠動脈の狭窄を広げる割合はどちらも90~95%ととても高いです。
なのでどれを選択するべきかは主治医とよく相談し、納得した上で手術を受けるようにしましょう。
まとめ
狭心症はきちんと治療を行えば、重篤な状態になることを防ぐことができます。
胸痛などの症状がない人は治療に対する意識が薄れてしまうかもしれませんが、今一度治療の大切さを理解してもらえたらと思います。